オリパは賭博なのかについての雑多な考察

〈0.今回の考察の目的〉

 トレーディングカードゲームの店舗オリジナルパック(通称『オリパ』、店舗がバラ売りのカードを中身が見えない状態でまとめ売りしている商品)の一部について「賭博法に抵触しているのではないか」という意見が広まっているようなので、それが妥当なものなのか割りかし大雑把に考察していきたいと思います。

〈1.違法性が考えられるオリパとは何か〉

 「違法性が考えられるオリパ」について幾つかのパターンが考えられますが、ここでは「シングルカードで購入する場合の合計金額以下の値段で消費者にオリパが売り付けられたパターン」と「シングルカードで購入する場合の合計金額に比べて非常識に低い値段で消費者にオリパが売り付けられたパターン」の二つのパターンに絞って考察していきたいと思います。

〈2.前述のオリパは賭博に当たるのか?〉

 刑法における賭博に該当するかの要件としては、「偶然性」・「金銭その他の有体物や財産的利益の得喪の争い」が挙げられます。

 確かに『オリパ』の購入に際して中身が幾ら位の価値があるかについては「偶然性」が認められるし、ある購入者とその他の購入者の間で『オリパ』の当たり外れに差異が生じうるので「金銭その他の有体物や財産的利益の得喪の争い」の要件を満たしているように思われます。

 しかしながら、この考えには大きな欠点が存在しています。つまり、こういった刑法における賭博の要件を満たしているのはあくまで「消費者側」に限定されているという点です。

 他方『オリパ』の販売者側からすれば、自身の販売する『オリパ』の中身や価値を全て把握しており(必然性がある)、さらに『オリパ』を誰に販売しようとも得られる利益は一切変化しないのです(利益の得喪の争いが存在しない)。

 こう考えると『違法性の考えられるオリパ』の販売を賭博罪によって規制しようとした場合、全体的に見れば損をしているはずの消費者側が賭博をしていると判断される一方で、『違法性の考えられるオリパ』によって利益を得ている販売者側は賭博を直接している訳ではないと判断されてしまう事になります(ただし販売者側は、賭博場開張図利罪に問われる可能性があります)。

 以上の事から、賭博罪を根拠に『オリパ』の規制を行おうとするのには疑問が感じられる事となります。

〈3.違法性の考えられるオリパの根本的な問題点〉

 そもそも今回の考察で2パターンの違法性について考察している通り、本来ならば『オリパ』の中身に当たり外れが存在している事に大した問題は存在していないはずなのです。

 つまり、「適正価格より高額なオリパを売り付けた」時点で独立的に違法性が生じる可能性がある一方で、「適正価格よりも異常に低額なオリパを売り付けた」時点でもまた独立的に違法性が生じ得ると考えるのが妥当なのです。大雑把にそれぞれの違法性について比較しながら説明すると、前者の場合「本来の値段以下の商品を高値で売り付けている」ので「詐欺罪(すなわち刑法違反)」などに抵触する可能性がある一方で、後者の場合「適正価格に比べて異常に低額な商品を販売する事で、他の同業者の適正な商売の機会を不当に妨害していること」になりかねないので「不正競争防止法」などに違反する可能性があります。

 それぞれ違法性の根拠が独立しているので、どちらか一方が適用され得る『オリパ』の存在も考えられます。賭博罪のみで考えていると、こういったケースの『オリパ』の違法性に対応できません。外れのみの『オリパ』は詐欺、当たり外れのある『オリパ』は賭博、異常な当たりのみの『オリパ』は・・・・・・と、完璧な把握の困難な『オリパ』の内容を基準とした規制は現実的とは思えません(そもそも賭博詐欺は賭博罪に当たらないので、詐欺に当たる内容を含んでいる時点で賭博罪は成立し得ないはず)。

 したがって、「少数の豪華な当たりを広告材料とする行為」や「消費者の射幸心を煽るような販売手法であるということ」といった賭博的な部分はむしろ付随的な問題であって、主要な問題は「適正価格より高値でオリパを販売すること」と「適正価格に比べて異常に低額なオリパを販売すること」にあると考えるべきでしょう。

〈4,違法性のあるオリパを賭博として扱うことの問題点〉

 さて、賭博罪は社会的法益に対する罪として考えられている一方で、詐欺罪は個人的法益に対する罪として考えられています。要するに非常に大雑把に言うと、賭博罪は「賭博行為の横行が社会に悪影響を与えるので賭博を規制していく」という理由で立法されている一方で、詐欺罪は「詐欺行為によって他者に不利益を与えた者に刑罰を与える(最終的には受刑者の更生を促す)」という目的で立法されているのです。つまり同じ刑法中の条文であっても、その内容は全くの別物であるのです。

 もしも『違法性の考えられるオリパ』の売買が賭博罪に該当すると判断されてしまうのであれば、『オリパ』そのものが賭博の対象であると判断されたことになってしまいます(『違法性のあるオリパ』と『適法なオリパ』を区別するのであれば、これまでに述べてきた理由から詐欺罪などで対処すべきである判断されるはずなので)。

 そうなった場合、適切な価格設定の『オリパ』を販売していた店舗は今後それまで『オリパ』販売で得てきた利益を半永久的に失う事になってしまいますし、賭博的な内容を期待せずに『オリパ』を購入してきた消費者も『オリパ』を手にする事ができなくなってしまいます。

 厄介なのはそういった規制強化の原因となった悪質な業者や個人は『オリパ』以外の手法でまた利益を上げていくであろうという点です(『オリパ』販売の手軽さを考えると、儲からなくなれば別の業界へ簡単に鞍替えしてしまう可能性が考えられるでしょう)。適切な営業をしている店舗ほど規制強化を素直に受け入れるでしょうから、遵法精神のある店舗ほど規制による損害を受けてしまう事になるでしょう。

警察が働くことで、違法性とは無関係な店舗までも不利益を被ってしまうのでは、何のために法律が存在しているのか分からなくなってきます。

またこれまで黙認されてきた『オリパ』販売を、一部の違法性がある『オリパ』販売によって一転して否定してしまうのは、大袈裟にも思われますが国家に対する信頼を失わせる結果ともなってしまうでしょう。

〈5.総括〉

 これらの理由から筆者は、たとえ違法性のある『オリパ』であったとしても、賭博罪を根拠に規制しようとするのは妥当ではないと考えています。

三つ揃え堂 ブログ

同人ゲーム、自作小説、イラストを作っています。作業の進展状況などを記事にしていきたいと思います。

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